阪神電鉄グループの建設会社が取り組んだ“自分ごと化”の情報リテラシー教育
ハンシン建設が感じた、社内研修の限界と“外部視点”の効果とは?

脇 保仁 様
デジタル経営推進室 部長
兼 経営管理本部 副本部長
兼 経営管理本部 経営企画部長
明石 達雄 様
デジタル経営推進室 部長

「情報セキュリティは大事だとわかっていても、どうしても他人事になる」
――そんな課題感を抱えていたのが、阪神阪神ホールディングスグループの総合建設会社、株式会社ハンシン建設です。
ICTやDXの導入を推進する一方で、“人づくり”にも注力してきた同社。近年はSNSを中心とした“目に見えないリスク”への対応力が、より一層求められるようになっていました。
しかし、従来の社内研修だけでは限界がある。特に現場社員や若手層に対しては、情報モラルを「自分ごと」として捉えさせることが難しかったといいます。
そこで同社が選んだのが、外部の専門家によるデジタルリスク研修。講義とワークショップを組み合わせた独自のアプローチが、社内にどのような変化をもたらしたのか。現場を知るお二人にお話を伺いました。
現場からはじまる“納得の教育”を求めて
── 外部研修導入の背景には、どんな問題意識があったのでしょうか?
脇:
うちでは以前から情報セキュリティやSNSの使い方について、社内で研修を行っていました。ただ正直なところ、「伝わっていないな」と感じる場面が多かったんです。

明石:
社内で研修を実施すると、どうしても「また同じ話か」「知ってるよ」という空気になりがちで。特に現場で働く社員やベテラン層になるほど、反応が鈍くなる傾向がありました。
脇:
やっぱり“何を話すか”より、“誰が話すか”なんですよ。私たちが真面目に伝えても、同じ組織内の人間というだけで、受け手の本気度が下がってしまう。これはもう、外部の力を借りたほうがいいと考えました。
明石:
一応、ツールの導入やICTの整備と並行して、“使う側の教育”もやってきたんです。ただ、若手や中途の社員は受け流しがちで、リスクを“自分に関係ある話”として捉えられていないのが課題でした。
脇:
我々としても丁寧に伝えてきたつもりですが、社内の人間が言うことで“内輪の話”になってしまう。そのせいで、本来伝えるべき危機感が薄まっていたのは否めません。
「よくある研修」とは違う、“現場感”が決め手に
── 研修の選定にあたって、他社との比較や決め手はどんな点でしたか?
明石:
実は最初、他社の研修プログラムもいくつか検討していました。ただ、どれもいわゆる“教科書的”な内容で、正直なところ、社員の心には刺さらないだろうなと感じていました。

脇:
大事なのは、「自分に関係ある」と思えるかどうかなんですよね。過去の研修だと、内容が抽象的すぎたり、他業種の話だったりして、「うちとは関係ない」という印象を持たれてしまうことが多かったです。
明石:
その点で、御社の研修はまったく違っていました。炎上シミュレーションや実際のSNS投稿をもとにした事例紹介など、内容がとにかくリアルで。しかも、ただ“事例を見せる”だけでなく、参加者に「自分ならどうするか?」を考えさせる構成が印象的でした。
脇:
問いの立て方もすごくよかったですね。正解を押しつけずに、“考えさせる仕掛け”になっていた。これは社内で内製するとなると、なかなか難しいと思います。
明石:
あと、講師の方のトーンや雰囲気も非常に自然でした。押しつけがましさがなく、でも本質は突いてくる。そのバランスが絶妙で、「この人の話なら聞いてみよう」と社員が素直に耳を傾けていたのが印象的でした。
脇:
内容も講師も、いわば“伝わる設計”ができていたんですよね。ここまで社内の温度感に合った研修は、他にはなかったです。
受け身から“考える場”へ──空気を変えたワークショップ
── 実際の研修現場では、どのような反応が見られましたか?
脇:
まず驚いたのは、「寝ている人がいなかった」ことですね(笑)。今までの社内研修では、途中で集中が切れる人もいましたが、今回は最初から最後まで、皆が前のめりに参加していました。

明石:
最初は少し構えている雰囲気もあったんです。「また何か言われるのかな」みたいな。でも、炎上シミュレーションのワークに入った瞬間、空気が変わりました。
「それ、マジでやばくない?」って、社員同士で自然とツッコミが飛び交っていて。
脇:
ワークショップ形式にしたのも大きかったですね。一方通行の座学だと“聞き流すだけ”になってしまいがちですが、今回は「自分ならどう対応するか?」を考える構成だったので、発言も活発でした。
明石:
しかも、答えが1つではないというのも良かったです。立場や経験によって見解が違うからこそ、議論が深まる。ワークを通じて、社員同士の“視点の違い”にも気づける時間になっていたと思います。
脇:
また、録画して後日配信した回もすごく評判が良くて。「eラーニングより緊張感がある」「ちゃんと話を聞こうと思える」という声が多かったですね。動画でも“ライブ感”が伝わる構成にしてもらえたのが良かったのだと思います。
明石:
形式的に“やったことにする研修”ではなく、現場の社員が「自分で考えて、話す」という時間になったこと。それが最大の価値だったと感じています。
意識の変化は、ちょっとした“会話”に表れる
── 研修実施後、社内でどのような変化がありましたか?
脇:
一番印象的だったのは、“会話が生まれた”ことです。研修って、受けて終わりになることが多いじゃないですか。でも今回は違いました。研修から数日後に、「この前の話だけどさ…」っていう雑談の中で、SNSの話題が自然と出てきたんです。

明石:
若手社員からも「これって投稿しないほうがいいですよね?」みたいな相談が来たりして。今までは、そういうことを聞く雰囲気すらなかったので、変化を感じました。
脇:
驚いたのは、管理職の方々の反応ですね。これまでSNSリスクについてあまり意識されていなかったのですが、研修を通じて「具体的に注意すべき点がわかった」と高評価でした。結果として、意識改革にもつながっていると感じます。
明石:
これまでは“その場限り”だったリテラシー教育が、日常の中に少しずつ溶け込んできているのを実感しています。
脇:
当社のように現場仕事が多い会社では、SNSリスクって他人事になりやすいんです。でも今回の研修を経て、「自分も関係あるんだ」と腹落ちしてくれた人が多かったように感じます。
「やったことにする」ではなく、「残る」教育へ
── 今後、社内での活用や展望についてお聞かせください。
脇:
継続性が一番の課題ですね。うちは中途採用や派遣の方も多くて、全員が一斉に研修を受けることは難しい。だからこそ、録画教材などを活用して“タイミングに縛られずに届ける”方法を模索しています。
明石:
ただ、動画って“ただ流すだけ”になると、受け手の集中力も続きません。そうならないためにも、「あのときの研修と同じクオリティで伝わるか?」が鍵だと思っています。
脇:
実際、御社に制作していただいた録画研修は、「ライブ感がある」「伝わるトーンになっている」と、社内でも好評でした。単なるスライドの読み上げではなく、講師の語り方や間の取り方が“人の話として届いている”という感想もありました。
明石:
そうですね。特に現場の社員にとっては、対話的なテンポがあるだけで受け止め方が全然違います。今後は採用時教育などにも活用できるように、教材として体系化していければと考えています。
脇:
「教育はやったことにすればいい」ではなく、「終わった後に何が残ったか」が大切なんですよね。今回の研修は、その“残る感じ”があった。だからこそ、今後もこのスタイルを軸にしていきたいと考えています。
