阪神電鉄グループの建設会社が取り組んだ“自分ごと化”の情報リテラシー教育

ハンシン建設が感じた、社内研修の限界と“外部視点”の効果とは?

脇 保仁 様

デジタル経営推進室 部長
兼 経営管理本部 副本部長
兼 経営管理本部 経営企画部長

明石 達雄 様

デジタル経営推進室 部長

株式会社ハンシン建設

業種:総合建設業

従業員数:289名(2025年4月1日時点)

URLhttps://www.hanshin-const.co.jp/

「情報セキュリティは大事だとわかっていても、どうしても他人事になる」
――そんな課題感を抱えていたのが、阪神阪神ホールディングスグループの総合建設会社、株式会社ハンシン建設です。

ICTやDXの導入を推進する一方で、“人づくり”にも注力してきた同社。近年はSNSを中心とした“目に見えないリスク”への対応力が、より一層求められるようになっていました。

しかし、従来の社内研修だけでは限界がある。特に現場社員や若手層に対しては、情報モラルを「自分ごと」として捉えさせることが難しかったといいます。

そこで同社が選んだのが、外部の専門家によるデジタルリスク研修。講義とワークショップを組み合わせた独自のアプローチが、社内にどのような変化をもたらしたのか。現場を知るお二人にお話を伺いました。

現場からはじまる“納得の教育”を求めて

脇:
うちでは以前から情報セキュリティやSNSの使い方について、社内で研修を行っていました。ただ正直なところ、「伝わっていないな」と感じる場面が多かったんです。

内製で行っていた社内研修が形骸化していた当時を振り返りながら話してくださる脇さん

明石:
社内で研修を実施すると、どうしても「また同じ話か」「知ってるよ」という空気になりがちで。特に現場で働く社員やベテラン層になるほど、反応が鈍くなる傾向がありました。

脇:
やっぱり“何を話すか”より、“誰が話すか”なんですよ。私たちが真面目に伝えても、同じ組織内の人間というだけで、受け手の本気度が下がってしまう。これはもう、外部の力を借りたほうがいいと考えました。

明石:
一応、ツールの導入やICTの整備と並行して、“使う側の教育”もやってきたんです。ただ、若手や中途の社員は受け流しがちで、リスクを“自分に関係ある話”として捉えられていないのが課題でした。

脇:
我々としても丁寧に伝えてきたつもりですが、社内の人間が言うことで“内輪の話”になってしまう。そのせいで、本来伝えるべき危機感が薄まっていたのは否めません。

「よくある研修」とは違う、“現場感”が決め手に

明石:
実は最初、他社の研修プログラムもいくつか検討していました。ただ、どれもいわゆる“教科書的”な内容で、正直なところ、社員の心には刺さらないだろうなと感じていました。

「研修参加者に気づきを促す構成」に、他社とは違う可能性を感じた、と語る明石さん

脇:
大事なのは、「自分に関係ある」と思えるかどうか
なんですよね。過去の研修だと、内容が抽象的すぎたり、他業種の話だったりして、「うちとは関係ない」という印象を持たれてしまうことが多かったです。

明石:
その点で、御社の研修はまったく違っていました。炎上シミュレーションや実際のSNS投稿をもとにした事例紹介など、内容がとにかくリアルで。しかも、ただ“事例を見せる”だけでなく、参加者に「自分ならどうするか?」を考えさせる構成が印象的でした。

脇:
問いの立て方もすごくよかったですね。正解を押しつけずに、“考えさせる仕掛け”になっていた。これは社内で内製するとなると、なかなか難しいと思います。

明石:
あと、講師の方のトーンや雰囲気も非常に自然でした。押しつけがましさがなく、でも本質は突いてくる。そのバランスが絶妙で、「この人の話なら聞いてみよう」と社員が素直に耳を傾けていたのが印象的でした。

脇:
内容も講師も、いわば“伝わる設計”ができていたんですよね。ここまで社内の温度感に合った研修は、他にはなかったです。

受け身から“考える場”へ──空気を変えたワークショップ

脇:
まず驚いたのは、「寝ている人がいなかった」ことですね(笑)。今までの社内研修では、途中で集中が切れる人もいましたが、今回は最初から最後まで、皆が前のめりに参加していました。

ジールコミュニケーションズの講師による、社内研修(ワークショップ形式)の様子

明石:
最初は少し構えている雰囲気もあったんです。「また何か言われるのかな」みたいな。でも、炎上シミュレーションのワークに入った瞬間、空気が変わりました。
「それ、マジでやばくない?」って、社員同士で自然とツッコミが飛び交っていて。

脇:
ワークショップ形式
にしたのも大きかったですね。一方通行の座学だと“聞き流すだけ”になってしまいがちですが、今回は「自分ならどう対応するか?」を考える構成だったので、発言も活発でした。

明石:
しかも、答えが1つではないというのも良かったです。立場や経験によって見解が違うからこそ、議論が深まる。ワークを通じて、社員同士の“視点の違い”にも気づける時間になっていたと思います。

脇:
また、録画して後日配信した回もすごく評判が良くて。「eラーニングより緊張感がある」「ちゃんと話を聞こうと思える」という声が多かったですね。動画でも“ライブ感”が伝わる構成にしてもらえたのが良かったのだと思います。

明石:
形式的に“やったことにする研修”ではなく、現場の社員が「自分で考えて、話す」という時間になった
こと。それが最大の価値だったと感じています。

意識の変化は、ちょっとした“会話”に表れる

脇:
一番印象的だったのは、“会話が生まれた”ことです。研修って、受けて終わりになることが多いじゃないですか。でも今回は違いました。研修から数日後に、「この前の話だけどさ…」っていう雑談の中で、SNSの話題が自然と出てきたんです。

明石:
若手社員からも「これって投稿しないほうがいいですよね?」みたいな相談
が来たりして。今までは、そういうことを聞く雰囲気すらなかったので、変化を感じました。

脇:
驚いたのは、管理職の方々の反応ですね。これまでSNSリスクについてあまり意識されていなかったのですが、研修を通じて「具体的に注意すべき点がわかった」と高評価でした。結果として、意識改革にもつながっていると感じます。

明石:
これまでは“その場限り”だったリテラシー教育が、日常の中に少しずつ溶け込んできているのを実感しています。

脇:
当社のように現場仕事が多い会社では、SNSリスクって他人事になりやすいんです。でも今回の研修を経て、「自分も関係あるんだ」と腹落ちしてくれた人が多かったように感じます。

「やったことにする」ではなく、「残る」教育へ

脇:
継続性が一番の課題
ですね。うちは中途採用や派遣の方も多くて、全員が一斉に研修を受けることは難しい。だからこそ、録画教材などを活用して“タイミングに縛られずに届ける”方法を模索しています。

明石:
ただ、動画って“ただ流すだけ”になると、受け手の集中力も続きません。そうならないためにも、「あのときの研修と同じクオリティで伝わるか?」が鍵だと思っています。

脇:
実際、御社に制作していただいた録画研修は、「ライブ感がある」「伝わるトーンになっている」と、社内でも好評でした。単なるスライドの読み上げではなく、講師の語り方や間の取り方が“人の話として届いている”という感想もありました。

明石:
そうですね。特に現場の社員にとっては、対話的なテンポがあるだけで受け止め方が全然違います。今後は採用時教育などにも活用できるように、教材として体系化していければと考えています。

脇:
「教育はやったことにすればいい」ではなく、「終わった後に何が残ったか」が大切
なんですよね。今回の研修は、その“残る感じ”があった。だからこそ、今後もこのスタイルを軸にしていきたいと考えています。

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