美容に関心の高い層の利用も多く、ビジュアル的に情報収集できるInstagramは、美容医療との相性が抜群です。美容クリニックでのInstagram運用は、クリニックによってはSNS運用専門スタッフがいたり、受付やコンシェルジュが兼業していたり、ドクター自らが美容医療系インフルエンサーとして診療の傍らインスタ運用されていることも珍しくありません。
Instagramは今や集客に欠かせないツールとなりましたが、SNSを運用する上で医療広告に関わる法律を理解しておくことが重要です。厚生労働省が発表している「医療広告ガイドライン」に沿ったSNS運用ができていますか?今回は、美容クリニックのInstagramにおいて押さえておくべきポイントを解説します。
目次
医療広告ガイドラインの目的と重要性
「医療広告ガイドライン」は、美容医療を含む医療サービスに関連する広告やトラブルから患者を守るために、厚生労働省が策定した指針です。医療サービスは人の生命・身体に直接影響を与えるため、他の分野に比べて広告に関する規制が厳しく設定されています。また、「医療広告ガイドライン」の違反の疑いがあったり、医療機関のウェブサイトで虚偽や誇大な表示があれば、「医療機関ネットパトロール」へ通報され、指導される可能性があります。
美容医療分野は、歯科に次いで通報が多い分野です。リスクを抑えつつ健全な美容クリニックのInstagram運用を行うためには、「医療広告ガイドラインの遵守」と「ITリテラシーの教育」が重要です。これを怠ると、重大なトラブルや行政からの指導に繋がる可能性があります。
「医療広告ガイドライン」は約40ページもあり、難解で挫折してしまいそうになる方もいるかと思いますが、一緒に「医療広告ガイドライン」のポイントについて整理していきましょう。
美容クリニックでのビフォーアフター写真掲載の際の注意点
一目で治療効果が分かるビフォーアフターの写真は、悩みを抱える患者にとって強い関心を引くと同時に患者の判断に大きな影響を与える広告となります。ここにも無視できない医療広告ガイドラインがあるんです。実は医療広告ガイドラインにより、ビフォーアフターの写真を広告として使用することには厳しい制限が課せられています。施術結果には個人差があり、誤解を与える可能性が高いため、条件を満たさない限り、広告として使用することはできません。
ビフォーアフター写真をインスタに乗せる際の4つのポイント
適切な医療の選択を支援する観点からビフォーアフターの写真の広告は禁止されていますが、患者に誤認させないように下記の条件内容を明記すればビフォーアフターの写真を掲載することが可能になります。
- ✓ 治療の具体的な内容
- ✓ 費用等に関する事項
- ✓ リスクや副作用
- ✓ 治療に必要な期間および回数
患者にとって分かりやすいよう十分に配慮しなければいけないので、下記の形式はNGです。患者に勘違いさせないような適切な情報提供を心がけましょう。
- × ビフォーアフターの写真のみで十分な説明がない
- × 明記しなければならない内容を外部リンクにしている
- × 文字が小さく必要情報が見づらい
美容医療でInstagramを運用する際の無視できないNGルール
1.比較優良広告
他の美容クリニックと比較して自分のクリニックのほうが優れているとアピールするのは誘引性があると判断され、医療広告ガイドライン違反となります。例えば「日本一」「最高」「唯一」などの表現は認められていません。
著名人が来院しているなど関連性を強調するような表現も、患者等に対して他の医療機関より著しく優れているとの誤認を与える恐れがあり、たとえ事実であっても患者等を不当に誘引するおそれがあることから、比較優良広告とみなされます。
2.誇大広告
「誇大広告」とは、事実を不当に誇張した表現を指します。例えば「知事の許可を取得した病院です」という表記に嘘はないが、病院が都道府県知事の許可を得て開設することは、法における義務であり当然のことです。また、「 顔面の○○術1か所○○円」という広告に小さく注釈で「※5か所以上の施術した場合」と書かれていた場合、患者は1か所○○円と認識してしまう可能性があります。理解注釈は見落としを誘発するため、イメージとの相違が発生し、誇大広告となりえます。
3.虚偽広告
医療広告では正確な情報提供が重要視されています。「どんなに難しい症例でも必ず成功させます」「100%安全な手術です」「5歳若返ります」など医学的にありえない表現は医療広告ガイドラインに違反します。
4.公序良俗に反する内容の広告
「公序良俗(こうじょりょうぞく)」とは、簡潔に言うと「公共の秩序を守るための常識的な観念」を意味します。わいせつ若しくは残虐な図画や映像又は差別を助長する表現等を使用した広告など、公序良俗に反する内容の広告はNGです。例えば、脂肪吸引などの施術動画は、施術希望者の具体的なイメージを与えるかもしれませんが、一般的な視点では不快感を与える可能性があるため注意が必要です。ここで考えるべきは、施術風景を見慣れてしまっているドクターやその周りで働くスタッフにとっては日常的な風景だとしても一般的に見たら刺激が強い内容であるということです。
5.治療内容または治療効果に関する体験談
患者の主観に基づく治療内容や効果に対する体験談は、事実であるかどうかに関わらず、広告にすることは禁止されています。患者の主観に基づく体験談を紹介することは美容クリニックへの誘引性を目的としていると考えられるからです。こうした口コミついては、治療内容・治療効果の感想は個々の患者の状態により当然異なるものであり誤認を与える恐れがある為、医療広告としては認められません。そのため、口コミサイトの口コミの転載や抜粋をのせるのはNGです。見返りのない自主的なSNS投稿については規制対象外ですが、クリニック側が関与する場合は誘引性が認められる可能性が高いため注意が必要です。
6.医療の品位を損ねる内容の広告
医療に関する広告は患者が広告内容を適切に理解し、治療の選択をするために正確な情報の伝達に努めなければなりません。そのため、医療機関や医療の品位を損ねる「今なら○○円でキャンペーン中!」など費用を強調した広告や、「今なら来院で○○プレゼント!」など提供される医療とは直接関係のないもので患者を誘引させるようなものは、医療の品位を損ねるのでNGです。
ステルスマーケティングとインフルエンサーの関係性
インフルエンサーと医療広告ガイドラインの関係については、誤解が生じやすい部分です。インフルエンサーを起用すること自体は問題ありませんが、ステルスマーケティングの観点では、広告であることを正確に表示する必要があります。たとえ適切なPR表記があっても、医療広告ガイドラインの観点では、効果や効能を強調したり、他のクリニックより優れているとの誤認を与える表現は認められません。
具体的には、「インフルエンサーが来院した」という事実を強調して「当クリニックは他と比べて優れている」とアピールすることは、比較優良広告としてガイドライン違反となる可能性があります。
ステルスマーケティングに関する対策
ステルスマーケティングを防ぐためには、インフルエンサーに明確なガイドラインを提供し、投稿が適切に表示されるように管理することが重要です。詳しくは「ステマ規制で注意すべきポイントと対策方法」に詳しく解説されていますで、参考にしてください。
SNS運用で切り離せないリスク管理
インフルエンサーを活用したSNS運用においては、リスク管理も欠かせません。たとえば、ビフォーアフター写真を使用する場合、事前に患者からの明確な同意(モニター契約)を得ていることが絶対条件です。さらに、公式アカウントと個人アカウントの切り替えミスによる誤爆や、コンプライアンス違反が発生しないよう、SNS運用のチェック体制を整える必要があります。
SNS炎上のリスクを抑えるためには、組織的にリスクマネジメントを徹底し、学びの場を提供することが重要です。ジールコミュニケーションズでは、炎上対策やリスクマネジメントに関する無料セミナーを随時開催していますのでお気軽にご参加ください。
まとめ
インフルエンサーマーケティングを美容クリニックのPRに活用する場合、適切な法的知識とリスク管理が重要です。特に、医療広告ガイドラインや景品表示法を遵守し、透明性のある運用を心がけましょう。リスクを回避しながら、健全なSNSマーケティングを行うことで、クリニックの信頼性を高め、長期的な成功を目指すことができます。