越境EC市場の拡大に伴い、日本企業もSNSを活用した海外SNSマーケティングに力を入れ始めています。今は現地に実店舗がなくてもSNSを通じて日本ブランドの魅力を世界中に発信できる時代です。しかし、文化や言語、価値観の違いから、意図しない炎上や誤解を招いてしまうといったデジタルリスクも潜んでおり、海外向けSNS運用をこれから始めようとしているご担当者様の中には、海外でのSNS運用の安全策に悩んでいる方も多いのではないのでしょうか?
本記事では、海外向けSNS運用における主なリスクとその具体的な対策方法、そして安全かつ効果的に海外SNS運用するための組織体制の構築方法を解説していきます。

目次
海外向けのSNS運用が注目される理由と背景
海外向けSNSマーケティングが注目される背景として、最も大きいのが「マーケットを海外に広げられる」という点です。海外SNSマーケティングを実施することで、顧客対象を国内から世界に、販路を大きく広げられる可能性を秘めているからです。日本企業のグローバル展開は、重要な選択肢となりつつあります。
理由1_越境EC市場が拡大している
越境ECとは、インタ−ネットを通じて商品やサービスを海外に販売することを指します。経済産業省の調査によると、2021年は7,850億USドルだった越境ECの市場規模が、2030年には7兆9,380億USドルにまで、年間平均成長率でいうと約26.2%と推計され、今後も市場が拡大し続けることが予測されています。

また、越境ECによって日本の商品はアメリカ・中国からの購入金額が多いですが、逆に日本が購入する額が少ないのが見てとれます。越境ECは今後の企業成長戦略として有望で、そのためには海外SNSマーケティングが欠かせません。

理由2_ 日本国内の人口減少が進んでいる
日本国内における人口減少が進む中、海外市場での販路拡大が重要になっています。総務省が公表した「人口推計」によると、10月1日時点の総人口は1億2380万2千人で、前年に比べ55万人減少となり、14年連続で人口が減少しています。
また、「我が国における総人口の長期的推移」によると、2050年には1億人をきると予測されています。つまり、このまま行けば確実に日本の顧客数の絶対値が減少し、企業の売上にも大きな打撃を与える可能性があるのです。なので、この状況を打破するために、早いうちから日本国内だけでなく、海外市場を開拓することが必要となります。
理由3_デジタル化が進み海外市場に進出がしやすい
従来のビジネスでは、海外展開のために現地に実店舗を構える必要がありました。しかし、SNSと物流の発展により地理的な制約は軽減され、実店舗を持たずともECサイトを通じて国境を越えて世界中に商品を販売したりオンラインサービスを提供できる時代となりました。海外ビジネスを始められるハードルが低くなりつつあるのです。
理由4_インバウンド施策として優秀
訪日外国人向けのインバウンド施策として情報発信を行うことは、実際に現地に足を運んでもらうきっかけを生み出し、その地域の活性化にもつながります。さらに、訪日外国人を受け入れる体制が整っていることのアピールにも繋がるので、安心感を与えられ、競合他社との差別化にもなります
理由5_SNSは購買の起点&企業SNSでのリアルな発信がキー
官公庁の「訪日外国人の消費動向 2024年年次報告書」の「出発前に役に立った旅行情報源」調査結果によると、「SNS」(38.9%)、「動画サイト」(38.1%)、「個人のブログ」(24.9%)の順で多いことが分かりました。公式サイトや観光ガイドといった従来型の情報源よりも、企業ブランドの「リアルな声」や「ブランドストーリー」に価値を感じる傾向が強まっています。そのため、SNSは単なる情報発信ツールではなく、企業ブランドの想いをくみ取った質の高い顧客を創造する「最前線の接点」として、重要性を増しているのです。

海外向けにSNSを発信することで期待できる効果
現代のデジタルマーケティングにおいて、SNSは企業と消費者個人がコミュニケーションを図るための重要なプラットフォームとなっています。SNSの良いところは広告と違い、ユーザーと自然な形でのアピール接触が可能なところです。企業のSNSを通じてジャパンブランドの世界観を知り、継続的にコミュニケーションをはかることでブランドに対する信頼感やロイアリティが向上し、質の高い顧客となります。SNS上での情報発信や定期的なコミュニケーションが購買行動に直結するといっても過言ではないのです。
海外進出のきっかけになる
ビジネスにおいていきなり海外進出を試みるのは、企業にとって大きなリスクとプレッシャーを伴います。ですが、SNSを通じて少しづつ海外の反応を見ながら進めることで、海外特有の嗜好やサービスの相性を調査しながら、海外市場を開拓することができるのです。さらに、自社の商品やサービスとの相性がSNS運用で可視化されるため、実際の海外進出に向けた判断材料にも活かせます。SNS運用は、海外での成功の可能性やリスクを見極めるために有効です。
新しい市場で新規顧客の開拓ができる
国内市場に留まらず海外市場へ進出することで、企業にとって多くのチャンスが生まれ、収益源の多様化にもつながります。また、日本での需要の低下が起きたとしても、海外市場を確立しておくことでリスクを分散させることができ、企業の経済的な安定につながります。
先述して越境ECが拡大していることを説明しましたが、訪日外国人が帰国してからも、その商品を気に入ればSNSを通じて越境ECからリピート購入できるでしょう。
世界各国のユーザーとコミュニケーションが交わせる
世界各国の消費者と直接コミュニケーションを取れる点も、海外SNS運用の大きなメリットです。一方通行の広告とは異なり、SNSでは企業と消費者が双方向のやり取りを行うことで、企業は消費者の声を直接聞く機会を得られます。
商品やサービスに対するリアルタイムなフィードバックを得やすいため、顧客が求めているサービスや、既存サービスの改善点、支持されている顧客層などを具体的に把握し、今後のマーケティングに戦略に活かせます。さらに、消費者の声に対して企業が積極的に発信を続けていくことで、信頼感が生まれ、ブランディングの強化にもつながります。
ブランド価値の向上・ブランド認知のグローバル化
自社製品の価値やサービスの素晴らしさを発信することで「ジャパンブランド」としての魅力を世界のSNSユーザーへ発信することができ、企業ブランドとしての価値を上げることができます。また、日本で取引がある企業に対しても「グローバル施策に力を入れている企業」としての信頼度をあげることができます。
海外SNS運用の基本戦略と実行
ターゲットとなる国の市場の調査とユーザー理解
まず重要なのは、「どの国の、どのようなターゲット層にアプローチするのか」を明確にすることです。ターゲットとなる国や年代によって、主に使われているSNSプラットフォームやユーザーの行動傾向には大きな違いがあります。
ターゲット市場ごとのSNS利用状況を把握し、適切なSNSプラットフォームを選択しましょう。
プラットフォーム | アクティブユーザー | 主な利用地域 | |
---|---|---|---|
1位 | 約29億人 | 北米・中南米・東南アジア | |
2位 | YouTube | 約26億人 | 全世界 |
3位 | 約25億人 | ヨーロッパ・中南米・インド | |
4位 | 約24億人 | 欧米・アジア | |
5位 | TikTok | 約16億人 | アジア・北米 |
6位 | WeChat(微信) | 約13億人 | 中国 |
ターゲットとなる国にとって違和感のない表現にする
言葉や文化の壁はありますが、SNSはユーザーにとって閲覧しやすいコンテンツにすることが重要です。そのため、投稿に違和感のない自然な表現を使うことが不可欠です。文法の間違いや不自然な言い回しは、ユーザーに不信感を与え、離脱を招くリスクを高めてしまいます。
特に海外向けSNSマーケティングでは、現地の言語や文化に精通した人材のコンテンツチェックを通すことで、単なる翻訳ではなく、現地のユーザーにとって違和感なく、自然に伝わる表現になります。
投稿スケジュールを調整
ターゲットとなる国の時差やSNS利用時間、文化的イベントや炎上危険日なども考慮しながら、投稿スケジュールを設計しましょう。
海外向けにSNS運用を行う際の心得

その国独自の文化や習慣の違いを理解する
海外向けにSNS運用を始める際は、ターゲットとなる国の文化や価値観、習慣の違いを理解することは非常に重要です。日本では問題のない表現だったとしても、国によっては不快感を与えたり、屈辱的な表現と感じさせ、自社アカウントの炎上や、不買運動に発展するケースも考えられます。まずは、ターゲットとする国や地域の文化の違いや価値観などを深く理解し尊重する姿勢が大切です。
ターゲットの国に合わせた表現方法で発信する
直訳しただけのコンテンツでは、サービスに込めた思いや価値が正しく伝わらないだけでなく、言葉のニュアンスの違いによって炎上リスクを招く可能性もあります。大切なのは単に言語を翻訳するのではなく、現地に合わせた表現にローカライズすることです。ターゲットとなる言語圏の文化や価値観に寄り添った自然な表現を心がけることで、信頼を得て、ユーザーの離脱も防ぐことができます。
ネイティブな人材とパートナーシップを組む
ターゲットとなる国にとってどのような内容が不快に受け取られるのかは、現地の文化や言語に精通していなければ気づきにくいものです。そのため、コンテンツの公開前にはネイティブスピーカーによるチェックを行うことが重要です。
日本では問題にならない表現や絵文字であっても、海外では特定の意味を持ち、不快感や誤解を生む可能性があります。また、国によっては宗教上の理由で禁止されている食べ物やファッションもあるため、細やかな配慮が求められます。
こうしたリスクを回避するだけでなく、文化的背景や言語のニュアンスを正しく反映したコンテンツ作りのためにも、現地のネイティブ人材とのパートナーシップは非常に重要です。現地の人々の響く情報発信を行うための、心強いサポートとなるでしょう。
海外SNSマーケティングでデジタルリスクを防ぐ鉄則

企業がどれほど丁寧にブランディングしても、SNS上の何気ない一言や個人のネガティブな投稿一つで、その努力を一瞬で崩すようにSNSでのネガティブバズが発生し、不買運動や企業のブランド毀損に発展します。SNSがブランドの価値を大きく揺るがす時代なので、デジタルリスク対策をしっかりと行いましょう。
炎上リスクのある話題は避ける
政治・宗教・ジェンダーなどのセンシティブな話題は原則発信しないようにしましょう。
その国の歴史やタブーとされていることを調査し理解する
歴史的な悲劇を想起させたり、マイノリティを揶揄するものと捉えられる可能性がないか、ジェスチャーやポーズが誤解を生んでしまうものになっていないかを確認しましょう。
国 | タブーとされる行為 | 理由 |
---|---|---|
タイ・インドネシアなど | 頭をなでる | 頭の上はとても神聖な場所とされている |
中東・イタリアの一部地域など | 親指を立てる | 相手を侮辱する意味 |
ギリシャなど | ピースサイン | 相手を挑発する意味 |
不適切なタイミングでの不適切内容の投稿に注意
日本では何でもない普通の日でも、ターゲットの国では歴史的な事件や事故が起こった日の可能性があります。そのようなときに不適切な投稿をしてしまえば炎上してしまうリスクが高まります。SNS炎上はこれまで築き上げてきた企業ブランドの信頼を一瞬で失うリスクです。事前に投稿注意日をチェックしましょう。
ターゲットとなる国でリアルタイムでおきている社会問題の情報収集を欠かさない
大型ハリケーンや大規模な山火事、悲惨な事件やテロなどがリアルタイムで現地で起こっている際に、平常運転のSNS投稿をしてしまうと不謹慎だとみなされ、炎上する可能性が高いです。非常事態になった場合は予約投稿はストップしたり、緊急時用の投稿へ切り替えるなどルール化しておきましょう。
体型やパーソナリティの多様性を認めない表現になっていないか確認する
広告モデルに痩せている方ばかりを起用したり、男女のカップルばかりを起用したりしていないか確認しましょう。
ステルスマーケティングに注意
ステルスマーケティングとは、消費者が広告やプロモーションであると明確に認識しづらい形で行われるマーケティング手法を指します。各国によって広告に対する法規制の内容は様々なので十分に調査しましょう。
海外SNS運用チームのベストな作り方
日本で企業SNSを運用していく場合も様々な価値観を持つ人がSNSを閲覧しているので、どの発言が切り取られて炎上してしまうか分からないので、完成したコンテンツは複数人の目を通しクリエイティブチェックし、炎上リスク対策する必要があります。
海外ではなおさら日本人だけでの投稿チェックではなく、ターゲットとなる現地に精通した人材を海外SNS運用チームにアサインし、海外でのSNS炎上リスク対策の基盤を構築しましょう。

ネイティブスタッフに伝えておくべきコンテンツチェックのポイント
- ✓文法の正確さだけではなく、トーンやニュアンスは適切か
- (丁寧な表現なつもりが冷たい表現になっていないか?)
- ✓絵文字やジェスチャー表現はターゲットとなる国の文化や社会的背景を攻撃していないか?
- ✓現地の人に好まれる最善の表現(ターゲット層に響くニュアンス)になっているか?
- ✓投稿タイミングは不適切ではないか
まとめ
今後、海外展開を狙う企業にとって、海外SNS運用は外せないマーケティング施策となります。日本市場の限界を超えて事業を拡大する大きな可能性を秘めていますが、同時に文化の違いや言語の壁、法規制の問題など海外SNS運用特有のデジタルリスクがあります。
ターゲットとなる国に合わせたローカライズと文化・宗教・政治的な影響を理解している現地ネイティブスタッフとパートナーシップを組み、ネイティブな人材を巻き込んだ海外SNS運用組織体制を構築していくことがポイントです。
ジールコミュニケーションズでは、日本企業のSNS運用チームと現地に精通した人材間のSNS運用体制構築の支援や、安心して海外SNS運用を続けるためのガイドライン作り、従業員へのSNSリテラシーの教育などデジタルリスクに関してのご相談を承っています。
「既に海外SNS運用は動いているが、海外制作会社に任せきりで炎上リスクが不安…」「これから海外にSNSを使ってマーケットを広げていきたいが、海外SNS運用体制の整備に自信がない…」といったお悩みのご担当者様は無料相談会を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

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